夜、片づけを終えた台所。写真立ての前を通りかかって、「今日はね」と言いかけた口が、途中で止まる。
「これって、良くないことなんだろうか」
見聞きした一文を、そのままスマホの検索窓に打ち込んでいる。
亡くなった人に、話しかけてはいけない、ということはありません。
この記事は、話しかけることをやめさせるための記事ではありません。言われる理由、場所別の話しかけ方、言ってはいけない言葉があるのか、返事がないときの受け取り方、話したいときにできること。この順で答えます。
明日また、いつもの場所で、同じように名前を呼べる。そこまで読み終えたときの状態です。
亡くなった人に話しかけてはいけないと言われる理由
先に言い切ります。これまでどおり、話しかけていいです。
昔から止められてきたのは、話しかけることではありません。話しかけたあとに、返事や姿を探しに行くことのほうです。
留守番電話に用件を吹き込んで切るのと、相手が出るまでかけ直し続けるのとでは、電話のかけ方が違います。前者は自分の側で終わっていて、後者は返事が来るまで終わりません。
よく並べられる3つの理由
よく見かける並べ方では、亡くなった人に話しかけてはいけない理由として、3つが挙がります。
故人の妨げになるという言い方。残された人の生きる力を奪うという言い方。良くないものを呼び寄せるという言い方です。
どれも、返事や姿が返ってきた場面をめぐる言い方です。話しかけること自体を止めているのではありません。
返事を探し始めると止まらなくなる理由
話しかけたあと、返事や音や気配を確かめに行き始めると、話しかけることが確認の作業に変わっていきます。そこから先は、何が返ってきても足りなくなります。
目印になるのは、自分の側で言い終わっているかどうかです。話しかけたあと、その場を離れて次のことに移れるなら、言い終わっています。まだ何かを待っている感覚が残っているなら、そこはまだ終わっていません。
言い終えて自分の側で終わっている話しかけは、どの場所のものも止めなくていいものです。
視えている場合は別と言われてきた理由
目の前に何かが現れたとき、それが本人かどうかを見分けるすべはありません。そう語られてきた言い方もあります。姿がはっきりしないぶん、話しかける前に立ち止まる人が増えたのだと考えられます。
ただ、視えているかどうかで、話しかけていいかどうかは変わりません。
【場所別】亡くなった人への話しかけ方
場所によって変わるのは、声に出すか、心の中で言うかだけです。
変わっているのは声の大きさで、相手ではありません。
同じ相手に話しかけるのでも、家の食卓と職場の廊下では、声の大きさが変わります。それと同じことです。
| 場所 | よく選ばれてきた言い方 |
|---|---|
| 仏壇や遺影の前 | 声に出す |
| お墓の前 | 心の中でも同じ |
| 写真やスマホの画像 | 声でも心の中でも |
| 家の中でひとりのとき | 生前と同じ声量 |
| 外出先や車の中 | 心の中で・声に出せる場面も |
| 家族や人がいる場所 | 心の中で |
| 寝る前や夜 | 心の中で・声に出す |
声に出すか、心の中でとどめるかには、場所ごとに理由があります。
仏壇や遺影の前での話しかけ方
声に出しやすい場所として語られてきました。その人の名前と顔が置いてある場所だからです。作法は関係ありません。話す内容も声の大きさも、いつもどおりでいいです。
お墓の前での話しかけ方
人目があるぶん、声は自然と小さくなります。心の中で言っても、届き方は同じです。行けない期間がある人も、この場所を特別扱いしなくていいです。

写真やスマホの画像に向かって話す形
写真や遺品に触れながら、そのまま話してください。触れているかどうかで、話しかけの意味が変わることはないです。
家の中でひとりのときの声の出し方
誰も聞いていない場所では、独り言に聞こえることを気にしなくていいです。生前と同じ声量で言っていいです。
外出先や車の中での話しかけ方
移動中に話しかける人は多いです。その人が好きだった場所や、よく通った道では、言葉が自然と出やすくなります。
家族や人がいる場所での話しかけ方
「まだ引きずっていると思われるのではないか」。ここでためらう人は多いですが、心の中で言うことは、遠慮であって手抜きではありません。声に出さなかった分、届く量が減るわけではないです。
寝る前や夜の話しかけ方
一日の終わりは、言葉が出やすい時間です。声に出しても、心の中でも、どちらでもいいです。
亡くなった人に言ってはいけない言葉はあるのか
言ってはいけない言葉の一覧はありません。
目安になるのは、生前にも言っていた言い方かどうかです。
久しぶりに会う友人に、いきなり普段使わない言い方はしません。話しかける相手が変わっていないなら、言い方も変えなくていいです。
生前にも言っていた言葉
今日あったことの報告。お礼。愚痴。名前を呼ぶこと。生前から交わしていた言い方は、そのまま続けていいです。
逆に、生前は一度も言わなかった形だけが、昔から避けられてきたと語られてきました。毎日決まった時刻に同じ懇願を繰り返す形や、返事が来るまで言い続ける形です。
毎日繰り返す同じ言葉
「会いたい」「帰ってきて」。同じ言葉を毎日同じ時刻に話しかける人もいます。毎日話しかけること自体は、止められていません。
回数ではなく、言い終わっているかどうかで見ます。
責める言葉と後悔の言葉
「なんで死んだの」「ごめんね」。そんな言葉が出てしまう日もあります。出てしまった言葉を、禁じる必要はないです。
感情の重さと、話しかけた言葉の意味とのあいだに、上下関係はありません。涙が出る日も、責める言葉が出る日も、その日の感情がそうだったというだけのことです。

亡くなった人に話しかけても返事がないときの受け取り方
返事がない日があっても、何も間違っていません。
手応えの有無で、その話しかけが成立したかどうかは決まりません。
手応えがないと感じたとき
何も感じない日があっても、それは受け取ってもらえなかったということではありません。同じ言葉を、同じ気持ちで話しかけていても、感じ方はその日によって変わります。
話しかけない期間が続いたとき
話しかけない日が続くこともあります。話しかける回数は、その人を思う気持ちの深さの目盛りではありません。
判定の基準は、話しかけたあと、自分の側で言い終わっているかどうかです。ここを取り違えると、話しかけたことそのものの意味まで見失います。
言い終わったかどうかが分からないとき
目印は変わりません。話しかけたあと、その場を離れて次のことに移れているかどうかです。
言い終わっていれば、何も返ってこなくても、その話しかけは成立しています。
それでも、返事の代わりに、直接声を聞きたくなる日があります。答え合わせを、事情を知らない誰かと一緒にしてみるのも一つの形です。

亡くなった人と話したいときにできること
亡くなった人と話したい。そう思ったとき、方法は今日からいくつも試せます。
亡くなった人と話す方法は、遠くに頼らなくても、今日から自分の手の中にあります。話すことに限れば、できることは4つです。
今日あったことを一つだけ報告する形
一つだけ、と決めると続けやすいです。生前の会話と同じ形です。
声が出ない日に名前だけ呼ぶ形
話す内容が浮かばない日もあります。そんな日は、名前だけ呼んでください。それだけで成立します。
手紙やノートに書いて話す形
声に出せない場面や、人前や、夜。書く形なら、場所を選びません。
人に故人の話をするという形
家族や友人に、その人の話をしてください。話題に出していいのかというためらいがあるなら、それはその人をまだ大切に思っている証拠です。
亡くなった人に話しかけてはいけないと言われることのまとめ
亡くなった人に話しかけてはいけない、ということはありません。
止められてきたのは、話しかけたあとに、返事や姿を探しに行くことのほうです。言い終えて自分の側で終わっている話しかけは、どの場所のものも止めなくていいです。
明日また、いつもの場所で、同じように名前を呼んでください。
それでも、まだ言葉にできずにいることがあるなら、話してみてください。



